Why we started moment.
前号の刊行からはや3年。分刻みで埋まるカレンダーに沿って日々の仕事に追われたり、いくつかの企画が頓挫したりしているうちに、あっという間に月日が過ぎてしまった。社会や経済の情勢は確かに変化しているにもかかわらず、自分たちの歩きかたはあまり変わっていない。個人にも社会にもあそびがなくなり、徐々に窮屈になっているように感じられた。
そんな行き詰まりを胸に抱えながら、飛び立ったのはインドネシアのバリ島。鳥の目で地図を眺めて場所を選ぶのではなく、出会う人が新たな人へとつないでくれて、さまざまなつくり手と話した。つづく山形県大江町では、採集物を用いてインクをつくるデザイナーとともに、山へ分け入った。そして旅の締めくくりには、福岡県広川町で公開編集室を仕立て、一週間にわたる滞在制作を行った。出会った人たちの手つきに引っ張られて試行錯誤するうちに、自分たちのつくりかたもどんどんと変わっていった。
今号の特集は「つくりかたをかえる」。あらかじめ綿密な計画を練り上げるのではなく、ときに脇道に逸れながら進むこと。自分と相手との間に線を引くのではなく、渾然一体となって踊ること。出会ったものごとを織り込んで何かを一緒につくること。そんな身振りをたどることから、今号の歩みをはじめてみよう。
2024年 10月 白井瞭